転職市場ガイド / 経営者インタビュー #01

30代子あり起業のリアル
——経営12年の軌跡と本音

「なんとなく会社員のイメージが湧かなかった」32歳での起業から12年。子供が2歳のときに始めた経営の現実を、包み隠さず語ってもらいました。

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やる夫さん
広告代理店・コンサルティング経営 / 起業12年目 / 30代子あり起業経験者

「30代で子供がいる状態で起業するなんてリスクが高い」——そう言われる中、2014年に32歳で起業し、12年間経営を続けてきたやる夫さん。3社の会社員経験を経て、子供が2歳のタイミングで独立した彼が語るのは、「しんどかった」ではなく、むしろ「準備したから怖くなかった」という現実です。起業を考えている30代へ向けた、リアルな体験談をお届けします。

CHAPTER 1 起業の原点
Q
起業しようと決意したのはいつ頃ですか?何かきっかけになった出来事がありましたか?
A

もともと大学時代から、なんとなく会社員を続けていくイメージが湧かなかったんですよね。だから「複数の会社を経験して、30歳ぐらいには起業しよう」とずっと考えていました。特定のドラマチックなきっかけがあったわけではなく、最初からそういう人生設計でいたというイメージです。

📝 「追い詰められて起業」ではなく「最初から起業が既定路線」というスタンス。この違いが後の準備の質に大きく影響したと考えられます。
Q
実際に起業したのはいつ、何歳のときですか?それまでにどんな会社員経験を積みましたか?
A

2014年、32歳のときです。それまでに3社経験しています。親族経営の会社、一部上場企業、そして社員80名ほどの創業10年未満のベンチャー企業です。

起業後に一番役に立ったのはベンチャー時代ですね。創業間もない会社だったので、人事制度も会計も売上のフォーキャストも何も整っていなかった。学びながらアウトプットする環境で、営業・管理職・新規事業企画・人事制度改革・新人教育・リストラまで、複数の役割を同時並行でやっていました。「詳しくなくても学びながら対処できる」という感覚が身についたのが、起業後の一番の武器になったと思います。

📝 ベンチャーで「整っていないからこそ何でもやった」経験が、1人で会社を回す起業家としての土台に。大企業での「専門分業」経験とは異なる、「泥縄式の全方位適応力」こそが経営者のコアスキルになる好例です。
CHAPTER 2 家族と起業のリアル
Q
起業した32歳当時、お子さんは何歳でしたか?パートナーの方の反応はいかがでしたか?
A

子供が2歳のときです。パートナーは「まあ、いいんじゃない?失敗してもまた会社員に戻ればいいでしょ?」みたいな感じでした。

📝 「失敗してもやり直せる」というパートナーの軽やかな反応が、精神的な安全網として機能したと言えます。過度なプレッシャーを背負わずに動けたことが、冷静な意思決定につながったのかもしれません。
Q
子供が2歳、起業したばかり——一番しんどかった時期はどんなときでしたか?
A

しんどい点はあまりなかった記憶です。すでに顧客がついていたこともあり、ある程度の売上は見込めていましたし、時間的にも最初は自宅で起業ということもあって、通勤もなくなり、いわゆる報告(受ける、する)的な会議もなくなり、時間的な余裕はむしろ増えたくらいでした。

ただ、初めての消費税の支払いのときは、なかなかのまとまった額を支払うので、ちょっとつらかったかなと思います(笑)。

📝 「しんどくなかった」理由は明確——在職中に顧客を確保した状態で辞めたから。「辞めてから考える」スタイルとの差が如実に出るポイントです。消費税の初回支払いショックは、個人事業主・法人設立直後の「あるある」として多くの経営者が経験します。売上の30%を税金口座に積み立てる習慣が重要。
CHAPTER 3 事業の中身と12年の山と谷
Q
どんな事業で起業し、最初のお客さんはどこから来たのですか?
A

前職時代にマネージャーをしていた部署が他社に売却されて辞めることになったのですが、その時に、別部署では引き継げなかった案件をそのまま譲り受けた形です。業種としてはウェブ上での集客に関する広告代理店事業とそれにまつわるコンサルティングです。スポット的に、現在もあまり変わっていません。

📝 「辞める前から顧客が決まっていた」というのは、最も理想的な起業スタートです。前職の取引先や案件を(合法・合意の範囲で)引き継ぐ「前職案件引き継ぎ型」は、初期リスクを最小化しながら即売上を立てられるモデルとして有効です。
Q
12年の経営の中で「一番しんどかった時期」と「一番よかった時期」を教えてください。
A

山でいえば、コロナのときです。顧客にEC事業者が多かったこともあって、取引額や取引量が増えました。ただし業務過多につき、精神的にはつらかったですね。

谷でいえば、新規事業の立ち上げをこれまで3度ほど行いましたが、売上不良、メンバーの離脱などで軌道に乗せることができなかったことです。こちらはお金的には失うものが多かったですが、精神的には非常に楽しく、わくわくしながらできていたと思います。

📝 「儲かったけど精神的にしんどかった」コロナ禍と、「損したけど楽しかった」新規事業の失敗——お金の満足と精神的充足は必ずしも一致しないという経営者ならではの視点。「楽しかった失敗」を3度経験してなお経営を続けられるのは、本業の基盤があってこそです。
CHAPTER 4 子育てと経営の両立
Q
「経営者の父親」として子育てをしてきて、よかった点・難しかった点はありましたか?
A

よかった点は、特定の勤務時間に縛られていないので、お昼休みに家事をする、買い出しに行く、習い事の送り迎えをするなど時間のコントロールがしやすかったこと。自然と子供と接する時間も増えたように思います。突然の病気になった子供を迎えに行くなども対応できましたし。

難しかった点でいえば、時間の自由度が高い分、パートナーから「対応できるでしょ??」みたいな感じで突発的なタスクを振られがちなところでしょうか(笑)。

📝 時間の自由は「子育てへの関与しやすさ」と表裏一体で「家庭内での役割期待の増加」をもたらします。「自由=全部引き受ける人」にならないよう、家庭内でも意識的な役割分担の設計が必要です。
CHAPTER 5 これから起業する人へのメッセージ
Q
12年間経営してきた今、「30代子ありで起業を迷っている人」に一番伝えたいことは何ですか?
A

顧客×仕事の組み合わせはできるだけ変えないこと。変えるとするならば、必ずどちらかだけにすること。これは必須だと思います。顧客/業界理解も、仕事理解もないもので起業するのは非常に危ないと思います。

どれだけ計画を立てても、見聞きしたレベルの情報ではなく、体感で作られたものでないので、失敗の確率が格段に上がります。

あの時の自分に言うならば——30歳の時に起業を見送って、家の購入を決断したのはグッジョブです!

📝 「顧客を変えるか、仕事を変えるか、どちらか一方だけ」というルールは、リスク管理の本質を突いています。両方を同時に変えると検証軸がなくなり、何が失敗の原因か特定できません。そして「家を先に買った」判断——住宅ローンは会社員のうちに、というのも経営者の現実的な知恵です。

💡 やる夫さんの起業で学べる5つのこと

起業は「決意」より「準備」——在職中に顧客を確保してから辞めたから、独立初日から売上があった。
ベンチャー経験が最強の起業学校——整っていない環境で複数役割をこなす経験が、経営者の全方位対応力を鍛える。
パートナーの「軽やかな応援」が強い——重すぎない期待が、経営者の精神的安全網になる。
失敗は「楽しかったかどうか」で評価する——3度の新規事業失敗を「楽しかった」と言える経営者は強い。本業の基盤があってこそ。
顧客か仕事、どちらか一方だけ変える——起業で「無知の二乗」(顧客も仕事も未知)は最大のリスク。

📌 このインタビューから見える「30代子あり起業」の現実

  • 「子供がいるから起業できない」ではなく、準備次第で子供がいても起業のリスクは低くできる
  • 時間の自由は「家族との時間増加」と「家庭内役割の増加」という両面をもたらす
  • 消費税・社会保険など「会社員時代に見えなかったお金」に備えておく必要がある
  • 新規事業の失敗は「お金は失ったが精神的には豊かだった」——経営の醍醐味はここにある
  • 住宅購入は会社員のうちに。起業後に「家を先に買っておいてよかった」と実感するケースは多い